今年は新型コロナウイルスによって鬱陶しく、荒んだ気持ちにさせられる日々が続いています。このような時期に少しでも心を癒やし、和んでいただければと、この『WEB ボタニカルアート展』を企画しました。ご自宅に居ながら、ゆっくり鑑賞できる新しいスタイルの展覧会ですので、寝っ転がって眺めたり、まずは楽しんで頂ければ主催者にとってこの上ない喜びです。
ボタニカルアートのおこりは1世紀頃、古代ローマの医師ディオスコリデスが著した薬物誌『マテリアメデイカ』とされ、15 ~16世紀前半の大航海時代にはスパイス類が戦争の火種となる一方で、新しい薬草や珍しい花々が西洋の貴族たちの興味をかき立て、17~18世紀ボタニカルアートは文化へと発展しました。
私が薬用植物を長年研究してきたことから、コレクションの多くは薬用植物です。植物の分類には、科ごとに並べるという便利な慣例があります。この展覧会でも科ごとに面白い植物を数点ずつ選びましたが、展示スペースに制限があり、1室(科)に4点ずつ、4室で計16点を展示しています。なお、16点の作品は毎月入れ替えますので、どうぞお楽しみに。
本展に出品する絵は18~19世紀の作品が中心となっています。この時代の作品は彫刻師が銅版や石版に植物の輪郭や陰を彫ったものを印刷し、そこへ絵師が手彩色を施しています。19世紀半ばになると輪転機での多色刷りが可能になりましたが、ヨーロッパの人々の手彩色に対する思いは深く、こうした伝統的手法による作品作りが続けられていました。
30年近く前のことですが、ミュンヘン大学の故Zenk教授に招待され、同大薬学部で大麻に関する研究の講演をしたことがあります。その謝礼をはたいてミュンヘン市内の古書店で購入したのが左の作品です。私はこの時に初めてボタニカルアートの存在を知り、コレクションを始めるきっかけとなりました。以来30余年蒐集を続け、このほど皆様に供覧していただける多種多様な作品が揃ったことから本展を開催することとしました。
この作品はE. Sweertiusによる木版画(1620年)で、Gentiana (リンドウの仲間)と Campanula (キキョウの仲間 )が描かれています。しかし、Campanula は間違いで、花の形態からヒルガオ科の Ipomoea 属 (サツマイモの仲間)の植物です。このように植物分類の神様と言われるリンネが『植物の種』を1753年に出版するまでは、あちこちで学名の間違いもありました。
リンネによる植物分類は「2命名法 (動物、微生物にも共通)」と呼ばれ、植物の名前は属名と種名に分けられ、最後に命名者に由来する人名が付けられています。出品しているほとんどの作品には植物名が記述されていますので、併せてお楽しみください。種名や属名はラテン語で記載するという決まりになっていて、植物の形態や産地、用途など、その植物に関するいろいろな事柄が記されていますので、深く紐解いて頂くと、より興味深くご覧いただけると思います。
最後に一つおことわりがあります。著作権はボタニカルアートでも作者の死後50年で消滅となっているため、インターネット上にもこうして自由に展示できました。しかし、展示権や複製権などは所有者の私に属していますので、ここに展示している作品の無断使用は厳禁とさせていただきます。
このサイトの制作はアサヤン企画(阿佐部伸一氏)にお願いしました。ここに深謝いたします。